日本写真協会賞新人賞・受賞理由
地球温暖化の影響は世界の隅々に現れてきている。気温や海面の上昇のみならず、今後さらに生態系、食料、健康など広範囲にわたり私たちや生き物、自然環境を脅かすものになっていくのではないか。この地球を覆うものの脆さを、私たちはこの2020年のコロナかに強く感じているはずだ。地球環境を美しい風景としてとらえるという写真家の王道ともいえる仕事も、この時代という宿命のものとに大きく変わろうとしているように思えてならない。
かつて写真エルンスト・ハース（米）が撮影した「ザ・クリエイション」(1971)は地球への「賛歌」であり「物語」でもあり多くの人々を魅了した。半世紀を経て、GOTO AKIさんがたどる道はファンタジーには流れない。なんと美しい世界かという感嘆こそあれ、その絶え間なく流動する地球(terra)の表情に、太古からの時間さえも超越する「生」を嗅ぎ取ろうとしているようだ。そこにはかつての風景写真に積層されてきた「構図」は一度解体され、外に向かう束の間のダイナミックなフレームですくい取られていく。そのアクティブな仕事を評価したい。
そんな大きな視点で撮られた「terra」は日本各地の名所のみならず、どこかの登山道や海水浴場が現場だったりする。写真家の「みる」という純粋な行為が、ミクロからマクロまでという尺度をもって私たちの眼前に迫ってくる時、そこには「絶景」にとどまらない、音のない生命の胎動が待ち受けている。
写真家 大西みつぐ
2020.10