artscapeレビュー 「terra」
キヤノンギャラリーS 2019/01/19~2019/03/04
写真評論家 飯沢耕太郎
戦前の福原信三あたりを草分けとして、緑川洋一、前田真三、竹内敏信らによって人気のあるジャンルとなった日本の風景写真だが、このところ新たな展開があまり見られないのが気になっていた。だが、GOTO AKIの今回の個展を見て、その空白を埋めてくれるのではないかという期待が芽生えてきた。
キヤノンギャラリーS 2019/01/19~2019/03/04
写真評論家 飯沢耕太郎
戦前の福原信三あたりを草分けとして、緑川洋一、前田真三、竹内敏信らによって人気のあるジャンルとなった日本の風景写真だが、このところ新たな展開があまり見られないのが気になっていた。だが、GOTO AKIの今回の個展を見て、その空白を埋めてくれるのではないかという期待が芽生えてきた。
東京・品川のキヤノンギャラリーSで展示された40点余りの作品は、すべて2016~18年に日本各地で撮影されたものである。浅間山、伊豆、奥入瀬、阿蘇といった撮影地をチェックすると、それらが「日本の観光地や誰でも登攀可能な山々」であることがわかる。つまり、これまで日本の写真家たちが繰り返し撮影してきた、いわば使い古された風景ということなのだが、とてもそうは見えない。GOTOは、あらかじめインプットされた定型としての風景のイメージをいったん解体し、「光・時間・色・造形・音・気温・匂い・風」といった要素に還元して画面上に再構築していく。その結果として、それぞれの風景に潜在していた「太古の時代から続く、悠久の時と、惑星の原始の姿」が浮かび上がってくる。
GOTOのアプローチは、いわばデジタル時代の新たな風景写真の模索というべきものだが、これまでの写真家たちの表現の積み上げをまったく無視しているわけではない。彼の写真にはアメリカのエリオット・ポーターの仕事を思わせる緻密で客観的な自然描写と、「富士山」や「犬飼滝」の写真にあらわれている東洋的な自然観とがうまく融合されている。これから先、その作品世界がどんな風に展開していくかが楽しみだ。なお、展覧会にあわせて、赤々舎から同名の写真集が刊行されている。
2019.1.31
2019.1.31